顎関節症

初めに顎関節についての説明です。

横からの図 真後ろからの図
横から見た図
<図1>
真後ろから見た図
<図2>


顎関節の場所

あごの関節(顎関節)は耳の穴(外耳道)の前<図1> にあります。
この部分に指をあてて口を開け閉めすると、関節(下顎頭)の動きがわかります。
この関節は、下顎骨の一番後ろの部分で上方に突き出ている下顎頭と、 頭蓋骨の下面にある下顎窩と呼ばれる「軸受け」の役目をする場所とが作る関節で、 左右に1つずつあります。


顎関節の形


  • 下顎頭は前から見ると、しゃもじを潰したような形をしています。
  • 下顎窩の前方には関節隆起という出っ張りがあります。
    これは、馬に乗るときの鞍を逆さにしたような形をしています。
    これらの骨の表面は、成人では表層繊維層という線維性の膜で覆われ、
    手足の関節のような軟骨は出ていません。
  • 関節円板
    顎関節の下顎頭と下顎窩の間には関節円板があります。
    野球帽のつばを狭くした形と考えてください。
    関節円板は骨ではなく繊維の束ですが、普通の組織に比べて細胞の数が少なく、 神経や血管はほとんどありません。
    関節円板は下顎頭の外側と内側には強く連結しているのに対し、
    前後への連結は強くありません。
  • 関節包
    この関節組織を取り巻く、関節包という線維性の膜があります。
    関節包の内面には滑膜があり、滑膜からは、滑液という液体を分泌します。
    滑液は、関節の動きをなめらかにする潤滑油としての役割と、 表層繊維層に栄養を運ぶ役割があります。
  • 靭帯
    関節包のさらに外側には靭帯があります。
    これはどの関節にも必ずあって関節の周囲から上下の骨をつないで、 上下の関節が離れないようにするひも状の繊維組織です。
    顎関節の靱帯の中では外側靭帯が最も重要な靭帯と考えられています。
    この靭帯は顎関節の外側にあって、頭蓋骨と下顎頭のやや下の部分をつないでいます。

顎関節の運動の特殊性

  • 下顎頭は前に移動しながら回転する
    顎関節は、回転運動だけをする関節ではありません。
    下顎頭が大きく口を開けるときに前方に移動するという、特殊な機能を持っています。
    つまり下顎窩から下顎頭が前方にはずれることで、大きな口を開けることができるのです。

    「あごがはずれた」というのは、
    下顎頭が前方に移動した状態から元に戻れなくなった状態を言います。
  • 顎関節は左右にも動く

    下顎の骨は1つなのに両端に下顎頭が1つずつついているので、
    一方の下顎頭が前に出ても他方は下顎窩にとどまっていることもできます。
    このように2つの下顎頭がそれぞれ別の動きをすることで、
    下顎を左右に動かせるようになります。
    下顎を左に揺らすときには、右の下顎頭だけが前に出ています。
  • 関節円板はクッションの役割をする

    大きく開口したときは、下顎頭は関節隆起の下まで前方にでてきます。

    このとき、下顎頭の上に出っ張った面と関節隆起の下に出っ張った面とが上下から押し合う形となって、 互いに出っ張っているため両方の骨には強い負担がかかります。
    このような圧力集中をもっと広い範囲に分散させることができるように、 下顎頭には関節円板が帽子のように被さっていて、 一緒に前方に出てきて上下の骨の間にはさまることで圧力分散のためのクッションとなっているのです。
    このように関節円板は下顎頭とともに大きく前後に動きます。
    そのため関節円板は下顎頭以外の部分とは緩やかに連結しています。

     <図2>参照

    ここが、後述のような原因により潰れたりした場合に症状が現れます。
    一度に起こるわけではなく、長年にわたって変化が起こるわけですから、 気が付いたときにはもう、関節頭の形が変形していたりすることも珍しくありません。
    逆に変形していても無症状の場合も多く見られます。


顎関節症の症状

  • 大きく口を開こうとしたとき耳のそばでジャリジャリと音がしたり、 顎がひっかかるような感じがしてスムーズに開けない。
  • 口を開こうとすると耳のあたりに痛みがある。
  • 他にも
    食事をしていると顎がだるい 、 咬みしめると顎関節が痛い、 自分で押すと痛い、 常時顎関節に痛みがある、こめかみから顎にかけての筋肉に痛みがある等、
    多彩な症状が発現します。
    簡単に言うと、これが顎関節症の症状です。


顎関節症の原因

原因としては、色々ありますが、元々の顎関節の形状に問題がある以外は、
歯並びの異常や、補綴物(「ほてつぶつ」・義歯や詰め物、被せ物)の噛み合わせが合わない場合 (特に低い場合)に起こります。
低い場合とは、上下の奥歯をかみ合わせたときに、 下顎頭が顎関節窩に深く咬み込む状態になっているということです。
高い場合は違和感が強い為、悪化する前に処置できる場合が多いです。


顎関節症の治療法

補綴物が原因となっている場合

補綴物を作り直します。
その時、正常な噛み合わせを忘れてしまっている場合が殆どですから、まずその再現から始めます。
今、主流となっている方法はスプリント療法です。
これはバイトスプリントという歯に被せるプラスティックのカバーのようなものを使う方法です。
その時、薬物を併用する場合もあります。主に筋弛緩剤です。
時に、精神安定剤を使うこともあります。
もちろん痛みを伴う場合は鎮痛剤や消炎酵素剤も使います。

噛み合わせが原因となっている場合

矯正で歯並びの治療をする必要がある場合もあります。
癒着がひどい場合は、関節鏡というものを使った手術を行うこともあり、 また顎の変形を直す為の手術をする場合もあります。

このように、治療法は多岐にわたっているので
一概に、「どの方法が一番」と言えないところが難しいところです。
また、長い間かかって起こった異常ですから、直すのにも長い期間を必要とします。
症状が一進一退を繰り返す為、患者さんと歯科医の信頼関係が治療には不可欠です。